【八代目】ウイルスと細菌

【4月11日】当館八代目西山平四郎より再び寄稿がありました。
弊社社長は30年間長野県知事委嘱の食品衛生指導員を務め、3年前にその功績で厚生労働大臣表彰をうけております。長文になりますがその経験と知識をまとめたものです。今回のウイルスの話ではありませんが、なにかのご参考になればと思います。

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ウイルスと細菌

コロナウイスルについては新しいもので、マスコミ等で報道されている知識しかありませんが、旅館(飲食店)は別のウイルスとは20年以上戦い続けています。
それが「ノロウイルス」です。
平成9年までは「お腹に来る風邪(下痢・嘔吐)」として処理をされており、インフルエンザウイルスとならんで学級閉鎖、学校閉鎖の主な原因となっていました。それが平成9年の食品衛生法の改正で「食中毒」の原因物質と認定されてしまいました。
今まではただの風邪(集団風邪)だったのに、平成9年からは「感染症」として処理される場合と、「食中毒」として処罰を受ける場合の2通りが存在するようになりました。
日本は世界でも最も清潔な国の一つだと思いますが、平成10年と平成20年を比較すると、食中毒の件数・人数ともなんと「2倍」になっています。
その増えた分は「ノロウイルス」です。こんなに清潔な国でこの状況です。
当初細菌(食中毒菌)を食中毒にすることはともかく、「ウイルス」を食中毒にするのは無理がありすぎると業界で抗議をしましたが、一度決めた国の法律を変えるすべもなく、新しい加害者(食中毒をおこした施設)がどんどん増えました。

ここで、ウイルスと細菌の違いについて述べます。
(1)大きさ
細菌も小さいものですが、ウイルスはもっと小さく、時にノロウイルスは当初SRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれ、ウイルスの中でも特に小さく、ノロウイルス1個をピンポン玉の大きさまで大きくすると、人間の体は「本州」の大きさになります。またノロウイルスを人間の指紋の溝に「縦」に並べると3000個はいるといわれています。
汚い話ですが、ノロウイルスに感染した人の嘔吐物1gには最大1億個、下痢の便には1g中10億個のノロウイルスがいます。それほど小さいものなのです。
(2)人間の体内においての増え方
・細菌・・・体内に入ると唾液、胃酸などにより殺される。よって大量にはいり殺しきれなかった時に「食中毒症状」がおきる。代表的な食中毒菌の大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌などは「10万個」体内にはいると食中毒症状をおこすといわれています。
※但し、病原性大腸菌(O-157等)とカンピロバクターの2種類の細菌は1000個に満たない数で食中毒症状がでます。
・ウイルス(ノロウイルス)・・・ウイルスは、体内(宿主)の中に入るとそれを栄養として増える。ノロウイルスはわずか「100個」体内にはいっても、発症することが。便1gに10億個もあるウイルスがわずか100個体内にはいれば、その症状をおこせる。これがノロウイルスの食中毒が減らない主な理由です。簡単に言うと「小さく」て「強い」です。
その感染力の強さもすごく、近年の複数の都府県にまたがって2000名もの被害者を出した「きざみのり事件」。これはきざみのりの袋詰めを下請けで請け負っていた老人がノロウイルスに感染しており、その手できざみのりを袋詰めした。ただそれだけのことで2000名が発症しました。また熱に強く、85℃、3分間でやっと不活性化(害をなさない状態)します。そのため、感染者が焼きたての食パンを袋詰めし、1000人規模の食中毒を起こした例もあります。
これほど「小さく・強い」ウイルスですが、症状は「噴水のような嘔吐」「がまんできない下痢」とわかりやすく、感染力が強いため大規模な食中毒事故になりますが、ウイルスの殺傷力はそれほどでもなく、死亡者は極端に少ない現状です。そのためマスコミではそれほど大きくとりあげられませんが、風邪(アデノウイルス)、インフルエンザウイルスと並んで、最も身近なウイルスのひとつです。
健康な人は当然ウイルスをおさえる力も強く、嘔吐を我慢でき、下痢をし、もしかしたら気づかないうちにウイルスを体外に出して(ノロウイルスは主に十二指腸で増えます)通常の生活ができています。老人、子供は押し切る力が弱いので「噴水のような嘔吐」になり症状も比較的重くなる例が多いです。
平成9年に食中毒にされてから20年以上、ノロウイルスを防ぐように努力を続けていますが、結果はどうでしょう?
令和になっても、食中毒患者のトップはノロウイルスのままです。保健所、事業者ともに努力していますが、防ぎきれません。
これとは逆に「食中毒菌(サルモネラ菌、腸炎ビブリオ等)」による食中毒は明らかに減っています。要するに人は「細菌」は防げるようになっているが「ウイルス」は防げていない。本当に小さくて、なおかつ体内に入って増えるので、少ない数(100個程度)がはいればいいのですから。

今回のコロナウイルスに有効な薬ができるまでは、自分の「免疫力」を高める以外は身を守ることはできません。
体内にはいってくるのを防げるという間違った考えは捨てるべきです(きちんとした防護服・防護ゴーグル・防護マスクがある場合は防げるかもしれません)。薬局で売っていたサージカルマスクなどで「ウイルス除去99%」と書いてありますが、これはあくまで実験室レベルでの話です。ウイルスをマスクにまっすぐ当てれば1%しか通らないという意味です。日常生活で活動しながらマスクをつけた時は、鼻やあごとの隙間からいくらでもウイルスがはいっています。そして100個入れば、ウイルスの目的は達せられます。

政府のガーゼマスク配布には正直驚いています。カーゼのマスクでは、ウイルスにとっては魚の焼き網を口に当てているのと同じです。厚生労働省にはウイルスのプロがいくらでもいるのに、こんなことを止められないなんて、昔話のはだかの王様を見ているようです。

最後にもうひとつ残念なことが、先日の安部首相の記者会見で、「アビガン」の使用について記者から質問を受けた時、その病院の倫理委員会が結論を出す、と言いました。これはあんまりです。20%が急に重篤化する、原因も理由もわからない。しかしアビガンは効くらしい、そうしたらその判断は「家族」にあると思います。症例が少ないとか副作用などのことは説明をすればいいことです。なんとなれば最悪の場合でも意義を唱えないなどの覚書をとればいいだけです。わずかでもチャンスがあればそれをあたえるのが国民主権の「国」のなすべきことだと思います。コロナウイルスは防げないと思っていますので、今の時点の一縷の望みであるアビガンの実用化を強く望んでいます。逆に国民がどうしてこの運動をおこさないか不思議です。

八代目 西山平四郎

2020年04月11日